オフィス移転や改装は、企業がこれからの働き方を定義し、新しい文化を形にするプロジェクトである。
不安や課題を丁寧に取り除きながらプロジェクトを前に進めるPMの佐々木氏と、デザイナーとしてゴールの可能性を広げ、空間に新しい視点を提示する半沢氏 。
両氏の視点から、オフィスづくりにおけるこだわりや面白さ、ヒトカラメディアとして大切にしている価値観、そして業界の変化について語っていただいた。
1章 キャリアの転換点 ーヒトカラメディアとの出会いー
── まず、お二人がヒトカラメディアに入社されるまでの経緯を簡単に伺えますか?
佐々木氏:
私はもともと飲食の世界で働いていました。調理専門学校を卒業し、和食店で数年間働いていましたが、常連には会社員の方が多く、「この方たちはどんな場所で働いているんだろう」という興味が湧いたんです。
そこからオフィスという空間がどのように形づくられていくのか、その全体像に魅力を感じてPM会社への転職を決意しました。ビジネスマナーも分からない怖さはありましたが、若さゆえのチャレンジ精神も相まって、思い切って飛び込むことにしたんです。
前職のPM会社では5年半程在籍する中で、オフィスづくりのいろはを学ぶことができましたが、 下請け案件が中心で、上流から関わりづらい環境でした。もっとお客様と真正面から向き合い、プロジェクトの入口から出口まで一気通貫で伴走したい。その思いが叶うヒトカラメディアに魅力を感じました。
また、他の会社の事例紹介やプロジェクトに関するインタビュー記事では「自社の社員」に焦点を当てているのが印象的でしたが、ヒトカラメディアは「顧客」に焦点を当てていたことも決め手になりました。

半沢氏:
私は工業系のデザインからスタートしました。親族が車好きだったこともあり、私も影響を受けてプロダクトデザインに興味を持っていたのですが、人の暮らし全体に関わるデザインに興味が移り、大学ではインテリアを中心に学び、木材(杉の間伐材)の研究に没頭していました。
卒業後は、オフィス家具メーカー、設計事務所を経てフリーランスに。枠に捉われず幅広いジャンルの仕事を経験させていただきましたが、コロナ禍を経て事業会社でキャリアを歩むことを決意し、最終的にヒトカラメディアに辿り着きました。
ヒトカラメディアは、仲介やリーシング、デベロップメントと事業の幅が広いので、自分自身のキャリアの広がりにも期待が持てましたし、通勤時間が自転車で20分という距離感も個人的には魅力の一つでした(笑)

2章 「不安」を残さないこと。「面白さ」へのこだわり。
── お二人が提案時に特に大切にしている価値観は何でしょうか?
佐々木氏:
お客様の不安を解消することを最も大切にしており、これこそがPMの本質的な役割だと感じています。この価値観は、自分自身の経験から培われたものです。未経験でこの業界に飛び込んだ当初、専門用語の多さに圧倒され、理解が追いつかない時期がありました。
その中で、用語の意味を十分理解しないまま「伝書鳩」のようにお客様へ伝える事は可能ですが、強い違和感がありました。伝えた後に質問を頂いても答えられない場面が生まれますし、何より誠実ではないと感じたからです。だからこそ、「自分が理解するまで必ず聞く」というスタンスを徹底するようになりました。
さらに、プロジェクトは最終的に「人と人との協働」で進んでいきます。お客様との信頼関係を築けるかどうかが、プロジェクトの成否を大きく左右します。
その中で「レスポンスを早くする」という一見当たり前に見える行動も、どれだけ高いレベルで徹底できるかが重要なポイントになると考えています。
また、お客様とのコミュニケーションという点では、飲食業時代に常に意識して接客していた経験が、現在の仕事にも活きていると実感しています。
半沢氏:
自分の提案に対するこだわりは明確で、「お客様の要望通りの提案」と「お客様の要望を叶えつつも、自分が心から面白いと思える提案」という2通りの提案を必ず行います。
この「面白さ」に関しては、お客様ごとに前提条件が異なるため、臨機応変さが欠かせません。直近の事例では、ワークショップを通じて、お客様の社員の方々も巻き込みながら「自社にとっての面白さ」を定義づけしていきました。(後ほど事例として紹介)
もちろんワークショップを実施しないケースもあります。例えばいま抱えている案件の中には、とにかく「デザインの質」を最優先されるお客様もいらっしゃいます。。このような場合は、合意形成のプロセスよりも「いかにお客様の想像の範疇を超えるか」という点に焦点を当てることで、コンペでも選ばれる結果に繋がりました。
やはり提案を行う仕事である以上、お客様の期待値を超える姿勢を持つことは大事にしています。自分の想像の範囲内に収まる提案では、真の満足度には繋がらないとも思うんです。

本章のまとめ:
オフィスづくりという仕事は、決して「空間」だけを扱っているわけではない。
「不安」を取り除くことへの佐々木氏の徹底した姿勢は、PMという役割を超えて、人と人との信頼関係をどう築くかという問いそのものでもある。同時に、受け手がどのように感じるかを想像する能力が求められる領域でもあり、単なる進行管理や調整業務にとどまらない「感情のマネジメント」にPMとしての役割が宿ると言えるだろう。
一方で半沢氏の言葉からは、「面白さ」を妥協しないデザイナーとしての覚悟がにじみ出ていた。要望に応えるだけでなく、その先にある「まだ言語化されていないゴールの可能性」を提示すること。ときにはクライアントを巻き込み、ときには想像の枠を軽やかに飛び越える。そこに価値が生まれるのだと感じた。
3章 「伴走」を通して共につくりあげた、MNTSQ社のプロジェクト
── お二人で担当されたプロジェクトがあるとお伺いしましたが?
半沢氏:
先程も少し触れた事例ですが、MNTSQ様のオフィス移転プロジェクトを担当させていただきました。
プロジェクトの概要をお伝えすると、まずはメンバー参加型のワークショップを実施して、MNTSQ様の社員の方々がどんな考え方を大事にされていて、どんな会社にしていきたいかというアイデアを集めました。
そして、ここが凄く大変だったのですが、出てきたキーワードを「抽象化 ⇒ 意味付け ⇒ カテゴライズ ⇒ 空間化」というステップに落とし込む作業には、かなり骨が折れました。キーワード全てを空間に落とし込んでいくことは現実的ではないので、いかに優先順位をつけながら、MNTSQ様らしさを実現するかが鍵になりました。
ヒトカラメディアは「お客様に伴走するスタイル」を大切にしています。そのため、オフィスを作って終わりにするのではなく、その後の使い心地を伺うために定期的にお客様のもとを訪ねています。
実際に足を運んでみると、意外な場所が人気だったり、想定外の会議室の使い方をされていたりと、ヒトカラメディアが大事にしている「熱源(※バリューに用いられているキーワード)」があらゆる場所に生まれているのを目の当たりにします。改めて「提案して良かったな」と再認識できる機会にもなっていますね。

佐々木氏:
私はPMとして、お客様が欲しいものが何かを汲み取り、各々が本音の意見を出せる環境づくりに奔走しました。
MNTSQ様とは毎週打合せを設定し、徐々にお客様の機微にも敏感になっていきました。タイミングによっては、先方からは言い出し難い内容もあります。そんな時に直接ヒアリングをしてしまうと、却って本音を言えないことにもつながると思っていたので、こちら側から提案することを心がけていました。
そのようなアプローチをすることで、「実はそれが欲しかったんだよね」「やっぱりそっちの案の方が良いよね」という発言を頂けることになり、関係者全員で協創していくという構図をつくることができたと思っています。
また、プロジェクトを進める中で想定外の流れになることもしばしばありました。今回のプロジェクトに関しては、コストが当初想定していた予算よりも膨らんだことで対応に苦慮する場面もありました。
とはいえ、「予算の兼ね合いで、○○は諦めて下さい」と一方的にお伝えするのではなく、代替案を用意するということは特に意識しています。
今回のケースでは、MNTSQ様が既に高品質なオフィス家具を使われていたので、そのまま新オフィスでも継続して使用することで、コストの調整をさせていただきました。あらゆるものの可能性に目を向け、編み合わせながら、お客様の理想を叶えていくことがPMに求められてる役割だと思っています。

本章のまとめ:
オフィスづくりは、発想力や思考力、感情を読み取る想像力、そして制約を成立させる調整力まで、あらゆる力が求められる仕事だ。どれか一つが欠けても、プロジェクトは前に進まない。
MNTSQ社のプロジェクトでは、ワークショップで集めた膨大な言葉や想いを抽象化し、意味づけし、空間へと翻訳していく複雑なプロセスが重ねられていた。曖昧な「らしさ」を形にするには、クリエイティブと論理を行き来する思考が欠かせない。
同時にPMには、言葉にならない本音や迷いを汲み取り、予算やスケジュールと折り合いをつけながら「諦めない選択肢」を探し続ける姿勢が求められる。複数の力を同時に使い続ける、まさに総合格闘技のような仕事だ。
4章 変数を愉しみ、変化を生む
──昨今の業界全体の変化をどのように感じていますか?
半沢氏:
ここ数年で、セットアップオフィスが明らかに増えたと感じています。コロナの影響もあり、働き方の多様化が起こったことで、マーケットのニーズも大きく変化しています。
自分自身はこの流れをチャンスと捉えていて、セットアップオフィスをもっと手掛けていきたいと思っています。セットアップオフィスは一般的なオフィスづくりと設計の前提が異なり、提案先がビルオーナーであることが多いので、提案に向けて使う頭が変わってきます。
「費用を何年で回収するのか」「マーケット環境を踏まえた賃料の設定をどうするか」「席数をどう最適化するのか」など、事業収支の観点が空間の骨格を決める重要な要素となります。
例えば、一般的なオフィスと比べて高密度な座席を配置をするケースもあります。オーナー側としては「椅子を増やせば家賃収入が上がる」わけで、極めて合理的なんです。
一方で、空間づくりにおける意思決定が非常にシンプルであるのも面白いポイントです。オーナーの趣味嗜好を自由に反映させることができるので、「シックが好きだからシックにして」という一言で決まってしまうことも多いので、集客目線も踏まえた上で、どのように折り合いをつけていくかが鍵になってきます。

佐々木氏:
直近だと、企業からのオフィス増床のご依頼も併せて増えています。出社回帰の流れになってきていることで、フリーアドレスを止めて、固定席を増やす動きも出てきています。
関連した事例になりますが、先程のMNTSQ様では「出社したくなるオフィス」を目指されていました。以前はフロアが分かれていて、物理的な距離がコミュニケーションの壁になっていました。そこが解消されたことで、今は逆に「出社しすぎている」という嬉しい声もいただいています(笑)
「出社したくなるオフィス」をつくるには、家と比較しても、同じくらい働きやすい環境をつくり、就労環境としてのストレスを減らすことが大事だと思っています。
例えば、各席にPCモニターを設置したり、集中室をつくったり、対話が進むレイアウトのMTGルームを設計したりと、様々なシチュエーションに対応できる環境を整備しました。「仕事が進む実感」が出社動機になることも多いので、オフィスづくりを提供している身としては、「出社しすぎている現象」は非常に嬉しく思いますね。

本章のまとめ:
市場の動きに合わせて、オフィスの在り方も変わる。今ではリモートワークという言葉も浸透しているが、数年前までは出社が当たり前とされていた。働き方の前提が変わったことで、オフィスに求められる役割もまた、大きく変化している。
昨今のセットアップオフィスの潮流は、オフィスが「事業として成立させる場」であることを浮き彫りにした。収益性や投資回収といった合理性が強く求められる一方で、その制約の中でいかに人の行動をデザインできるかが、これからの空間づくりの腕の見せどころになっている。
一方、リモートワークから出社回帰の流れが進む中で、オフィスには様々な柔軟性も求められる。ただ席を用意するのではなく、働きやすさや集中力・対話の質を追求した空間設計をすることで、人が自然と集まり、結果として組織の温度が上がっていく。
効率性、快適性、収益性、文化形成。時代の多様化とともに、オフィスに求められる要素が複雑化している時代の中で、相反する要素を両立させる編集力こそが、これからのオフィスづくりの鍵になるのかもしれない。
5章 良い提案とは何か──「人の行動」を起点に考える
── これまで多くの事例を手掛けられてきた中で、お二人が「良い提案」だと感じるのは、どんな提案でしょうか?
半沢氏:
学生時代、先生から何度も言われていたのが、「良いデザインは、人の行動を促す」という言葉でした。ただカッコいいだけの見た目が良い空間は、意匠性が際立っているだけであって、必ずしも良いデザインというわけではないんです。
あとは、お客様の想像を超えるために、100%の力を振り絞った提案ですね。これはきっかけがあったというより、性格かもしれません。これぐらいでいいかと、80%で終わらせることは絶対したくなくて、提案するなら100%以上まで突き詰めます。
体育会系だったこともあり、根性論っぽく聞こえてしまうかもしれませんが、やれることは全部やる。その積み重ねが、コンペの勝率にもその後のリピートにも繋がっている感覚はあります。
ヒトカラメディアでは「伴走」という言葉を大切にしているのですが、全力で向き合ったお客様が事業成長をされて、会社規模の拡大とともに再度ご依頼を頂けることもあります。まさに言葉通り「伴走」して再度ご支援ができる際には大きなやりがいを感じますし、更に期待を超えたいと強く思えるんです。

佐々木氏:
大事にしている在り方に近いかもしれませんが、「目に見えない価値」をどれだけ生み出せるかを重要視しています。PMは設計の様に図面を作成するわけではないので、目に見える成果物を出し難い役割でもあると思います。
だからこそ、配慮や先回りを通して、人としての価値を感じてもらうことが何よりも大切です。コミュニケーションを媒体として、お客様の感情を動かす難易度の高い仕事だとは思いますが、オフィスをお披露目した際に、お客様の反応を間近で浴びることができる仕事でもあるので、喜んでくださる姿を目の当たりにした時には、大きなやりがいを感じます。
ヒトカラメディアに来て面白いなと思うのは、色んなメンバーがいて、色んな視点を学べることです。その分お客様と向き合う際の引き出しも増えていますし、それがPMとしての厚みを増してくれている実感もあります。
同じ課題を抱えていらっしゃるお客様は存在せず、求められるニーズも多様です。、今後もあらゆるジャンルのプロジェクトに関わる中で引き出しを増やしていき、あらゆるお客様に対して「伴走」して支援できるようなPMを目指していきたいと思っています。
本章のまとめ:
両氏が語る「良い提案」とは、完成度の高いアウトプットではなく、人の行動や感情をいかに動かすかという姿勢が前提にある提案のことを指す。
意匠性に富んでいるだけではない、人の行動を促す本質的なデザインを、100%の力で突き詰める姿勢はクライアントの未来への誠実さに他ならない。
一方で「目には見えないプロセス」にも価値を宿すことは可能だ。顧客の不安を取り除き、意思決定の質を高めることはPMならではの仕事だ。その積み重ねが信頼を生み、感情を動かし、最終的には感動に繋げることができる。
そして提案を一度きりで終わらせず、顧客の事業成長に寄り添い続けること。それこそがヒトカラメディアが謳う「伴走」であり、介在価値である。

編集後記
特に印象的だったのは、両氏が「空間の前に、ヒトを見ている」ことだった。仕様や素材の話よりも、そこにいる社員がどう動き、どんな感情を抱くか。顧客の感情や行動の変容を起こすことこそがデザインの本質だという視点が一貫していた。
人の温度を読み取り、期待を超える面白さを仕込み、制約の中でも諦めずに編み直す。その積み重ねが、結果として「また一緒にやりたい」という関係性を生んでいく。
オフィスは完成した瞬間がゴールではない。使われながら、変わり、育っていく。そのプロセスに寄り添い続けることこそが「伴走」であり、ヒトカラメディアが多くの企業から選ばれている理由なのだと感じた。
文・Focus i DESIGN 編集部



