言われたことを正確にやるだけでは、現場は動かない。
図面の行間を読み、丁寧なヒアリングを通して曖昧さを解消し、先の一手を提示することで、プロジェクト全体を前に進めていく。その積み重ねが指名に変わる。
凡事を極限まで精度高く実行し続ける“姿勢”と、未来のユーザー視点から空間の最終形を想像し続ける“想像力”、そして多くの関係者とプロジェクトを前に進める為の”コミュニケーション力”。
現場目線で未来をつくる人は、なぜ選ばれ続けるのか。
本記事を読めば、そのヒントが得られるはずだ。
尚、今回のインタビューは同社の新ブランドである「&PLACE 代々木」(※竣工直前)にて実施した。
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1章 キャリアの原点と転機
1-1. 劣悪な環境を通して得られた自信
幼少期から建築現場に触れることが多かったことから建築系の学校へ進学し、卒業後に最初に飛び込んだのは店舗内装の世界だった。元々は設計志望ではあったが、現場のことが分からなければ、良い設計はできないという想いから、まずは現場経験を積む決断をする。
「20年前は本当に劣悪な環境で、45日間休みなしなんてこともありました。1現場が終われば2週間程の休みを貰えて、それが終わるとまた長期間休みのない現場に入るという繰り返しでした」
しかし、劣悪な環境での経験はネガティブなことばかりではない。ここで得られた経験は、後のキャリアにおける自信にも繋がる。
1-2. 人助けから始まった14年
1社目の過酷な現場を通し、「もう二度と建築には戻らない」と何度も心に誓っていた。それでも次に選んだのは、当時まだ従業員数が数名しかいなかったLOOPLACEだった。
「LOOPLACEとの出会いのきっかけは、求人広告でした。自分から電話をかけて面接を受けて、その30分後に代表の飯田から電話がかかってきたんです。その内容は合否の連絡ではなく、『一緒に現場調査に来てほしい』というヘルプの連絡でした(笑)」
最初は戸惑いながらも、そのSOSに人助けの感覚で応じたという。しかし、その偶然の一歩こそが、LOOPLACEでの14年という年月を形づくる入口になった。

2章 リピート率は、偶然では生まれない
2-1. 不確実性の解像度を上げる
現在、小林氏が獲得している案件のうち、9割以上は大手デベロッパーグループ企業からのリピートだ。その裏には、机上の図面や仕様書だけでは読み解けない前提条件を、徹底的に細かくヒアリングする姿勢がある。
「業界全体では人手不足も相まって、見積りも粗くなりがちになっていると感じてます。そんな中、ありがたいことに『小林さんの見積りは、細部まで丁寧で分かりやすい』 と言っていただくことが多いです」
下請けという立場ではあるものの、“自分がいないと回らない状況” をつくることで、調整と判断の中心に立ち、信頼と実績を積み重ねてきた。その結果として、現在の高いリピート率に繋がっている。
2-2. 小さな余白の積み上げがブランドになる
事業部のサブリーダーとして、社内のメンバーを教育する立場も担っている。小林氏の徹底したスタンスは、時に社内メンバーから反感を買うこともあるという。
「『なんでそこまでやらないといけないんですか』と言われることもあります。(笑)でもそのメンバー宛てに特命でリピートの話が来た時は、大きなやりがいを感じますね」
小林氏自身、若い頃に業者との関わりを経験する中で、 “頼んでいないことまでやってくれた” という小さな体験に強く胸を動かされた。言葉にすれば些細なサービスかもしれない。だが”その人にお願いしたい”と思わせるのは、一歩外側の挙動だと気付いた瞬間だった。
”小さな+α”の積み重ねは、短期効率では測れない価値がある。その一貫した姿勢こそ、小林氏が長年にわたり顧客との強固な信頼関係を築き続けてこられた、最大の理由である。

3章 コミュニケーションの精度で、現場は決まる
3-1. 限界点での自己変革
数ある案件の中でも、銀座の高級レストランの案件は特別だった。ミシュランに掲載されるような料理人が監修し、内装を手掛けたデザイナーも著名な方だったという。
「見積りや指示出しが非常に詳細で、加えて初めて使うような材料ばかりを希望されていたので、手探り状態で進めなければならなかったんです」
初めて経験するシチュエーションであったことから工程が予定通りに進まず、途中から24時間体制で現場を進めなければならないまでに追い込まれていた。そんな限界状態の中で、周囲を頼ることの大切さに気付いた。
「最初は自分1人でなんとかしなきゃいけないと思っていたんです。でも、『このままだと納期に間に合わない』となった時に、周囲を頼ることで何とか乗り切ったんです」
人一倍責任感も強い性格だったことから、自分1人で抱え込む中で見えた限界点。しかし、その困難こそが小林氏のステージを一段上げることにも繋がった。
3-2. 頼り方がアウトプットを決める
しかし、ただ周囲を頼れば良いという訳ではない。丸投げではなく、“頼り方の質”が問われる領域だ。相手がプロとして尊重されていると感じれば、その温度に応じたアンサーが返ってくる。逆に、ただ投げてくる人間には“ただの作業”として返される。出てくるアウトプットの粒度は、こちら側の態度でほぼ決まる。
「業者さんとのコミュニケーションを取る上で、『これってこういう意図ですよね?』『こう納めた方が綺麗に行きますよね?』と、会話の温度を上げることを徹底しています」
指示だけで完結するようなシンプルな仕事ではない。むしろコミュニケーションが無ければ、一歩も前に進まない領域だ。つまり “頼る”とは、依存のことではない。相手の技術と視点を引き出し、そこに自分の意図を乗せ、精度の高い最適解に組み上げるための“言葉の使い方”そのものだ。
3-3. 机上ではなく、現場で育てる
対社外には“言葉の温度”で関係を立ち上げていく一方で、対社内のコミュニケーションは、異なるアプローチを取っている。小林氏は、説明より体験を優先している。
「改修工事だと現場に行くことで初めて分かることの方が多いんです。だから机上で説明するよりも、実際に現場調査に同行させています。その方が早く覚えられるし、本質的な成長に繋がると思うんです」
対社外は言葉で立ち上げ、対社内は現場で立ち上げる。同じコミュニケーションでも、入り口の設計が根本から違う。その背景は、対社外は“成果につながる温度”を上げる行為であり、対社内は“未来の精度”を育てる行為であるからだ。

「&PLACE 代々木」/ ミーティングルーム
4章 変数を愉しみ、変化を生む
4-1. 業界に起こる、確かな変化
小林氏が長きに亘りこの業界に在籍する中で、業界全体に視線を広げてみても、確かな変化の兆しがある。職人の若手の数が明らかに減ってきており、現場でも「10年後はどうなっているんだろうな」と雑談まじりに話すことが増えたという。
「現場にいると、AI や DX が実際どこまで現場に効いているのかについては懐疑的になることも多いです。しかし、昨今の状況を踏まえると大いに期待をしたいテーマです」
社内に目を向けても、テコ入れをするべき領域は多々あるという。特に、小林氏が担っている粒度の仕事を代替できる人材が現状少ない。今は育成の最中だが、業務効率化を進めることで、昨今の人手不足時代において、”人の手だからこそ価値を生み出せる領域”にいかに時間をつくることができるかが鍵になる。
4-2. 完成前の未来をハンドリングする
ネガティブな面が目立ちやすい世の中ではあるが、この業界における施工管理という仕事の“面白さ”についても小林氏は強調する。
「デザイナーが作成した設計図を元に進める工程の中で、机上の図面とリアルな現場には確かなズレがあります。『現場目線でユーザーの満足度を考えた時に、こう納める方が良いと思います』と提案することもあります。そうやって“より良い形”を一緒に探っていくプロセスこそ、この仕事の醍醐味なんですよね」
ただそれと同時に、怖さもある仕事だ。仕上がってからでは取り返しがつかない。修正には膨大な時間とコストがかかる。だからこそ施工前から完成イメージを持ち、可能性の芽は全て事前に摘んでおく必要がある。
「どれだけ細かい点であったとしても目を向けています。“この空間を使うユーザーはどう感じるか?”を常に考え続けています」
だから、小林氏は違和感を曖昧にしない。それが 1cm でも、ほとんど誰も気づかないレベルの話でも、飲み込んでは現場は良くならない。施工管理とは、“出来上がる前の未来”を握る役割を担っているのだ。

編集後記
小林氏の話を聞いて強く感じたのは、“凡事徹底をどこまで突き詰められるかで、未来の結果は変わる” という事実だ。
図面や仕様書上では読み解けない前提条件について、徹底的に質問すること。顧客目線に立った丁寧な見積書を作成する。ユーザーの感情を想像し、1cmの違和感も見逃さない。 そして、その”当たり前”を社内のメンバーにも連鎖させる。
空間づくりの本質は、その空間が使われる未来を、完成前から具体的に想像し続ける力にあると感じた。そしてその積み重ねが、リピート率9割という結果に繋がっている。
人と現場と未来に誠実であること。それを実現する為の「姿勢」と「コミュニケーション」の両立を一貫し続けている小林氏の言葉には、揺るぎない説得力があった。
文・Focus i DESIGN 編集部



