INTERVIEWセットアップオフィス
2025-10-31

デザイナーは、アーティストではない。 経済学部出身、異彩のデザイナーが求める「デザインの最大公約数」とは。

萩原氏 / 株式会社LOOPLACE

萩原氏 / 株式会社LOOPLACE

デザイン設計Gr.

「かっこいい」とは、単に見た目の美しさだけではない。デザイナーの萩原氏が追い求めるのは、時間、お金、そして顧客の満足度という3つの要素が重なり合った、創造性の最大公約数だ。

新卒でユニクロに入社し、店舗運営とマネジメントを経験した彼は、その後、内装デザインの世界へ飛び込んだ。そこは、海外のラグジュアリー案件に特化し、妥協のない「作家性」を追求するアトリエ系事務所。デザインの道を極めた3年半だったが、次第に「現実味」への渇望が募っていく。

デザインの先に、建物の構造や工事、そして不動産の経済性がある。そのすべてが一体となった、ものづくりの全体像を捉えたい。そんな彼の思いは、不動産再生を通じて「既存の場を、おもしろくする。」をコンセプトに掲げる株式会社LOOPLACE(以下、LOOPLACE)と共鳴した。

ここでは、デザインの力は、クライアントの事業を成功に導くための武器となる。見た目の美しさだけでなく、いかに効率よく、経済的価値を最大化できるか。その問いに向き合い、泥臭くもクリエイティブな挑戦を続ける萩原氏の仕事論に迫る。

1章 異色のキャリアが拓いた「現実」への扉

1-1. 経済学部からユニクロへ


大学は経済学部を卒業し、最初に足を踏み入れたのはアパレル大手のユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)であった。萩原氏は、そこで3年半にわたり、販売員や店長として店舗運営を経験する。そして偶然にも、新店舗の開発プロジェクトに携わる機会を得たことが、のちのキャリアを大きく変えるきっかけになった。

「もともと、小さい頃からものづくりが好きだったんです。図工の通知表はいつも良い評価でした。すごく思い出に残ってるのは、自分の部屋をもらった時に、おじいちゃんと一緒に部屋の壁四面に絵を描いたことですね(笑)当時から自分の空間を創ることや生み出すことが好きだったんです」

しかし、高校時代ではデザインの世界にどこかハードルの高さを感じていたため、かねてより、経営やマネジメントにも興味を抱いていたことから経済学部への進学を決めた。そして、卒業後は店舗運営を学ぶべくユニクロへの入社を決めたのだった。 

 

1-2. 店舗開発で見出したデザインの原点


ユニクロでのキャリアを積み重ねる中で、偶然関わることになった新店舗開発の現場は、萩原氏にとってデザインの世界を志す原点となった。

「カスタマー体験だったり、従業員の方の使いやすさとか、導線の効率性とか、そういった見えないところをどう考えるかという点に面白みを感じたんです」

お客様だけでなく、店舗で関わるすべて人々のことを第一に考える視点が、彼のデザイン哲学の礎となった。 

 

1-3. アトリエ系事務所での濃密な3年半


仕事に対するやりがいも感じていたものの、悩んだ末にユニクロを退職。商空間デザインの専門学校に1年半通い、デザインの基礎を叩き込んだ。その後、海外案件を専門とするアトリエ系デザイン事務所に飛び込む。ホテルやカジノ、バーなど、潤沢な予算を持つプロジェクトを担当する中で、妥協のないデザインを追求した。

しかし、専門学校を卒業したばかりの人間が、アトリエ系デザイン事務所に勤めるということがどれほどの苦労を背負うことになるか、業界を知る人ならば想像に難くないだろう。

それでも尚、業界へのキャリアスタートが遅れたという焦りの気持ちだけが、彼を前へ前へと突き動かした。そしてこの濃密な3年半は、「デザインの技術と精神性を磨き上げる貴重な時間だった」と当時を振り返る。
 

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2章 妥協なき挑戦と、新たな価値観との出会い

2-1. 「手触り感」の追求と新たな選択


提案への自由度が高い環境下で、顧客満足度の最大化を追求できていたものの、萩原氏は次第に違和感を覚えるようになる。

「プロジェクトの金額の大きさや作家性を探究したデザインがスケールアウトしているように感じ、日本でどれほどの需要があるのか、自分の市場価値はどれぐらいであるのか疑問を持ち始め、手触り感のあるリアルな視点を持ちたいと思うようになったんです」

自由度の高い環境と聞くと、デザイナーにとっては魅力に感じる人も多いかもしれない。しかし、デザイナーとしての今後のキャリアや市場価値を踏まえ、手触り感を求めた彼が次なるキャリアとして選んだのはLOOPLACEだった。

 

2-2. 「築古」というコンセプトへの共鳴


LOOPLACEの最大の魅力は、不動産、設計デザイン、工事、マーケティングがすべて一つの会社にまとまっていることだ。前職では分断されていたプロセスを、一気通貫で担当できることに強く惹かれた。

特に共感したのが、新築ではなく、古い建物に新しい価値を見出す「既存の場を、おもしろくする。」というコンセプトだった。

「旅行が好きで、海外の古い街並みに惹かれていたんです。ニューヨークのような近代的な都市よりも、歴史を感じる田舎町に心惹かれる。古いものを活かすという考え方が、潜在的に自分の中にあったんだと思います」

現在はプロジェクトマネジメントをメインに担当しており、クライアントへのヒアリングから、要件整理、デザイン、そして現場管理まで、プロジェクトの全工程に深く関わっている。
 

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3章 「かっこいい仕事」のトライアングル

3-1. 経済性を担保するマイルール


萩原氏には、仕事を進める上で2つのマイルールがある。

一つ目は、「経済性が担保されているか」。デザインが先行した独りよがりな提案ではなく、予算と時間の制約がある中でバランスを取ることが不可欠だ。

「見た目が良いデザインは、AIを使えば簡単に作れる時代です。本当に必要なのは、お客様が本質的に求めているニーズを捉え、現実のプロジェクトに落とし込むプロセスと、コーディネート力だと思っています」

デザイナーは、アーティストではない。ターゲットに響くか、コスト、スケジュールは適切か。すべての条件を考慮した上で、最適な形を導き出す。 

 

3-2. 顧客を巻き込むコミュニケーション術


二つ目は、「お客様が腹落ちするまで徹底的に説明すること」。この仕事は、何千万円、何億円もの莫大な金額の契約を交わすにもかかわらず、最初にお渡しできるのは図面やパースなどの「紙切れ」だけだ。

「前職の社長が『図面の1本の線に何百万円の価値が宿る』とよく言っていました」

その言葉が示す通り、図面一つひとつに魂を込めているからこそ、打ち合わせ前も徹底的に準備する。わかりやすく説明して徹底的に腹落ちしてもらう。それがクライアントへの礼節だと萩原氏は言う。そしてこの価値観はLOOPLACEでも活きている。

「LOOPLACEの看板を背負っている以上、この会社に任せておけば大丈夫と思ってもらいたい。その為にもプロジェクトのゴールから逆算して綿密なスケジュールを組み、こまめに打合せを積み重ねることで、お客様との信頼関係を構築することが何より大切なんです」

この価値観は、デザインをメインに担当していた前職のアトリエ事務所では決して得ることができなかったであろう。一気通貫体制でお客様へ価値を届けるLOOPLACEだからこそ、生まれた価値観である。
 
 

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3-3. 「最大公約数」が示す仕事の哲学


これらの考え方は、彼にとっての「かっこいい仕事」に通じている。

「たとえばデザインがどれだけ格好良くても、予算が大きくオーバーしてしまったら、それは自分の中ではかっこよくない。時間とお金とお客様の満足の最大公約数を狙って実現できた時が、一番かっこいいと感じます」

デザインが10点満点中7点でも、それが限られた予算と時間の中で最高のパフォーマンスを発揮し、顧客が心から満足してくれれば、それは100点満点の仕事になる。萩原氏は続けて時間の重要性についても言及する。

「お金があればどうにかなることもありますが、過ぎた時間だけはどうにもならないので、何よりも時間軸を最優先に置いています。最終的なゴールから逆算し、限られた時間の中でいかにベストを尽くすかを追求しています」

プロジェクトの期日を自ら決め、遂行する。自身に大きな負荷をかける行為だと感じる人もいるかもしれないが、期限があることで不安を消すことができるのだという。デザインに多大な時間をかけていた前職と比較し、考え方の違いが印象的だ。

 

3-4. ユニクロでの経験がいまに繋がる


LOOPLACEの仕事には、非常に多くの人が関わる。クライアント側だけを見ても、営業担当、広報、経理など、さまざまな部署の人が登場する。社内に目を向ければ、不動産部門やマーケティング部門が連携し、現場では工事担当者や一次・二次の協力会社、職人まで、多岐にわたる人々が関わっている。

「うちの会社でいうと、コミュニケーションのハブになっているのはデザイナーなんです。我々の動き方次第で、プロジェクト全体の空気感やチームの雰囲気が大きく変わるので、明るく元気にコミュニケーションを取ることで、風通しの良いプロジェクト進行ができるようにも心がけています」

ユニクロでは、早期に店舗のマネジメントを任され、店舗の目標数字達成に向け1人1人とコミュニケーションを取り、信頼関係に重きを置きながらチームビルディングを行ってきた。その経験がLOOPLACEでも活かされており、デザイナーとしてのハードスキルだけではなく、ソフトスキルの大切さについても説く。
 

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4章 築古ビルが持つ無限の可能性

4-1. 予期せぬイレギュラーとの向き合い方


LOOPLACEでは、古いカプセルホテルをオフィスビルに改装するなど、ユニークなプロジェクトを数多く手がけている。

「築古物件のプロジェクトは、予期せぬイレギュラーが本当に多いんです。天井を剥がしたら謎の配管が出てきたり、法律上あるべき壁がなかったり」

しかし、彼はこれを「学びの機会」と捉える。徹底した準備に加え、イレギュラーに対応するための「余白」をスケジュールや予算に持たせることで、トラブルを乗り越える。

「時間の配分を意識しています。たとえば、お金がかかる家具やアートの決定は、ギリギリまで判断を保留し、途中でイレギュラーが発生して予算が膨らんだ際には、そのイレギュラー分を調整できるように余白を残しておくんです」

また、プロジェクトを円滑に進めるために、お客様とのコミュニケーションを密にすることを心がけている。

「世界でも有名なプレゼンターのプレゼン勝率が7割を超えていたのは、本番までに何度もすり合わせを重ねる中で変数を減らしていくからだと聞きました。それと同じで、私はお客様が向き合ってくださる限り、できるだけ多くのタッチポイントを取るようにしています」

 

4-2. 行き詰まった時の3つの打開策


デザイナーとしての仕事は、常に順風満帆とはいかない。時にアイデアが煮詰まり、まるで深いスランプに陥ったように感じることがある。そんな時、萩原氏が自らの経験から導き出した打開策は3つあるという。

一つ目は、「要件整理をし直す」ことだ。思考が堂々巡りになった時は、一度立ち止まり、プロジェクトの根幹に立ち返る。「何のために、誰のために、何を作るのか」。この問いを再確認し、時間やコスト、安全性といった要件を洗い出すことで、見失っていた思考の領域が明確になる。萩原氏は、「要件が整理されることでデザインの自由度は意外と限られていることに気付くんです」と語る。コンセプトや予算といった条件を整理すれば、やみくもに自由を求めるのではなく、最適な道筋が見えてくるのだ。

二つ目は、「リーダーに相談する」ことだ。一人で抱え込まず、チームの仲間やリーダーに「行き詰まってます」と素直に伝える。すると、リーダーは一緒に時間をかけて検討してくれたり、「この案で大丈夫だよ!」と背中を押してくれることもあるという。このようなやりとりができるのは、信頼関係が深く根付いているからこそだ。

そして三つ目は、「アイデアを寝かせる」ことだ。一度完成させたものを、2、3日時間を置いてから見直す。そうすることで、新しい発見があるという。行き詰まった状態で見た時には気づかなかった改善点や、より良いアイデアが浮かんでくるという。 

 

4-3. 地域の歴史を活かしたデザイン


神田の物件では地域の歴史から「遊び心」をテーマにしたり、銀座の物件では落ち着いた「グレード感」を意識するなど、LOOPLACEは地域の特性を活かしたデザインを重視している。

「不動産部門と連携して、賃貸相場や地域の産業などを徹底的にリサーチします。それをもとに、自信をもってデザインの方向性やキーワードを決めていけるのは、社内に忖度なく意見をくれる不動産のプロがいるからであり、とても面白い環境です」

働く人々の価値観が多様化し、新築が難しい時代だからこそ、築古物件に新しい命を吹き込む彼らの仕事は、今後ますます重要になっていくだろう。
 

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5章 時代の変化と未来

5-1. 異業界から参入することの意味


他業種からこの業界に飛び込んだ経験について尋ねると、彼は推奨派だと語る。

「異なる業界で培った視点やスキルは必ず活きます。建築やインテリアデザインは人の活動や暮らしの蓄積の上に成り立つものなので、誰しもが知見を持っている。だからこそ、バックグラウンドが多様な人がデザインに挑戦するのはとても面白いと思います」

実際、彼もユニクロで培ったマネジメント力が現場でも発揮されており、アトリエ系デザイン事務所での経験があったからこそ、お客様に納得いただくための徹底的な準備の大切さに気付くことができ、いまに繋がっている。

 

5-2. コロナを経て変遷した価値観


コロナを経て働き方の多様化が進み、オフィスに限らず、働く場の選択肢が広がっており、このことはLOOPLACEにとってのチャンスに繋がっていると萩原氏は語る。

「物価高や不動産価格の上昇で新築領域が苦しい状況となり、既存の建物をどう価値向上させるかというバリューアップの需要が大手様からも増えています。築古再生は苦労も少なくないですが、当社が強みを発揮できる分野であると感じています」

時代を先回し、今後もニーズが肥大化していくことが確実視される領域において、LOOPLACEひいては彼の活躍に期待がかかる。 

 

5-3. 今後に向けたキャリアの展開


紆余曲折を経て今のキャリアに辿り着いた彼が、今後の未来をどう捉え、どんな未来を描きたいと思っているのか。その胸中をこう語る。

「働く場が多様化している現代だからこそ、古民家やホテルなど、オフィスという形態に囚われない働く場づくりには興味があります。現実的な目線だと、不動産や工事に関する専門知識をもっと磨くことで、経済性と満足度のバランスをとる上で欠かせない力を身に付けていきたいです」

顧客満足度の実現に向け、どこまでも一貫した姿勢を持つ萩原氏。これまで自分の気持ちに対して素直に意思決定をしてきた中で、今後はどのような未来を描いてくれるのか、今から楽しみでならない。

 

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編集後記

萩原氏は、デザインを「創作活動」ではなく、人の営みを支える「経済活動」とも捉え、その両立を追求する。

デザインの美しさと、ビジネスの合理性。この一見相反する要素を、「最大公約数」という言葉で見事に結びつけた。これは、ユニクロでのマネジメントや新店舗開発の経験と、アトリエでの作家性の追求という、異色のキャリアを歩んできた萩原氏だからこそ見出せた哲学だろう。

「この仕事の魅力は、完成した時の高揚感です。たくさんの人々の知見が積み重なって、一つのものが出来上がった時に、他では味わえない達成感がある」と語る。

デザインは本当に好きだ。だが、決してそれだけではだめだ。そう自分に言い聞かせながら、彼は今日も時間、お金、顧客満足のトライアングルを睨み、最高の答えを導き出している。彼の描くデザインは、新たな価値を宿し未来へと繋がれていくだろう。

文・Focus i DESIGN 編集部
 

株式会社LOOPLACE

株式会社LOOPLACE

魅力を失った築古ビルを不動産再生事業を通じて新たなオフィスニーズへ。循環型都市へ向けた再生の取り組み。

東京都 千代田区 神田神保町1-50 浦野ビル6階
設立 1998
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